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大阪地方裁判所 昭和41年(ワ)4370号 判決

原告 中岡義徳

被告 興和信用組合

代表理事 山本利一

訴訟代理人弁護士 河本尚

主文

訴を却下する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

原告は、陳述したものとみなされた訴状により、「被告は、原告に対し、金二六一万三、五〇〇円と、これに対する昭和四〇年八月一日から支払ずみまで年五分の金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする、」との判決および仮執行宣言を求め、請求原因として、

一、被告は、訴外大坪利郎を主債務者、原告を連帯保証人として、両名に対し貸金請求の訴を提起し、大阪地方裁判所昭和三八年(ワ)一、〇四九号事件として係属したが、原告は、当時不在のため口頭弁論期日に出頭しなかったので、欠席裁判により敗訴判決の言渡をうけた。そこで、原告は控訴し、現在大阪高等裁判所昭和四〇年(ネ)二三四号貸金請求控訴事件として係属中である。

二、被告は、右事件の仮執行宣言付第一審判決に基く強制執行として、原告が原告所有の鉄筋コンクリート、ブロック造四階建店舗(原告住所地所在、家屋番号同町一九五番)の賃借人たる第三債務者訴外高木証券株式会社ほか三名に対して有する家賃金債権につき、昭和四〇年六月一二日以降同年七月一二日までの間、三回にわたり合計二六一万三、五〇〇円の債権差押および転付命令をうけ、右同額の金員を取得した。

三、しかし、原告は、被告が右訴訟で主張するような訴外大坪の債務の連帯保証をしたことはなく、被告が証拠として提出している保証契約書は偽造のものである。

四、したがって、原告は、訴外大坪の債務のため自己の財産を差押えられる理由はなく、被告が第三債務者から受領した家賃金は、不法行為による不当利得金である。

五、よって、被告に対し、右金員の返還と、これに対し被告の利得以後の昭和四〇年八月一日以降支払ずみまで法定利率による年五分の遅延損害金の支払を求める、

と主張した。

被告は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、

(一)  請求原因一、二の事実を認め、他は否認する。

(二)  被告は、仮執行宣言付勝訴判決に基く正権原として債権差押、転付命令の手続をしたもので、これらは正当行為であるから不法行為を構成せず、それにより取得した金員は不当利得とならない。原告は、右訴訟の控訴審において争えば足り、本訴はその主張自体失当である、

と述べた。

理由

1、原告の主張一、二の事実は、争がない。

2、右争のない事実によれば、原告被告間に現に係属中の別訴大阪高等裁判所昭和四〇年(ネ)二三四号貸金請求控訴事件(第一審は、当庁昭和三八年(ワ)一、〇四九号)の訴訟物は、被告の訴外大坪利郎に対する貸金債権につき原告が負担した連帯保証債務の履行の請求であることがわかる。

3、一方、原告の前記主張によれば、本訴は、右別訴の目的物たる保証債務の不存在を理由とし、右別訴の仮執行宣言付一審判決に基く強制執行の結果被告が取得した金員について、不法行為による損害賠償または不当利得の返還を請求するものであることが、明らかである。

4、このような場合、原告としては、民訴法一九八条二項の方法により、前記別訴の手続中で原状回復または損害賠償を求め、あるいは他の訴訟をもって、同条による請求もしくは民法の不法行為または不当利得に基く請求をすることを妨げないと解されるが、このうち、民法による不法行為または不当利得の請求をする場合でも、強制執行の基本となった仮執行宣言付判決が取り消されたのちでなければ、その請求を許容すべきでないことは、仮執行宣言付判決の性質上、当然である。

5、そして、別訴の仮執行宣言付判決が取り消されていないことは、原告の主張自体により明らかであるから、その取消前にあらかじめ訴を提起することを必要とするような特段の事情の認められない本訴は、訴の利益を欠き不適法である。

6、よって、原告の訴を却下し、民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 杉山克彦)

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